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魚も自給率が下がっている

以下は「スマート・テロワール協会」の前会長松尾雅彦氏が『農業経営者』2017年7月号に寄稿したコラムです。出版元の農業技術通信社昆社長のご好意で転載させていただいております。

 

いつもジャガイモの話をしている私だが、カルビーで「かっぱえびせん」に使うエビの調達で、じつは水産物の流通にも詳しい。エビは魚よりも鮮度が落ちやすい。海外から日本にエビを運ぶには、鮮度が良いうちに水揚げした浜ですぐに冷凍してしまうのがいちばんよい。

3月24日、私は長崎で講演をした。長崎といえば魚の県だが水産業は低迷している。私は講演のなかであるグラフを見せた。長崎県が出典の生鮮魚介と生鮮肉の購入量を比較するグラフである。それを見ると、魚の消費が肉に取られたと勘違いしてしまう。しかし事実は、国内の鮮魚が減って海外から冷凍した魚が増えているのだ。スーパーやコンビニの弁当にはどれも魚が入っている。あれは輸入品である。肉と魚が入れ替わったのではなく、国内の魚と海外の魚が入れ替わっているのである。

日本で加工される魚は、アジの干物のような尾頭付きのものが多い。これは漁の日も干す日も天気が良くなければできない。すなわち毎日つくることができない。しかし食べる側はどうだろう。毎日干物は食べないが、冷凍した魚は弁当や回転寿司などで毎日のように食べている。

一方、中国やベトナム、チリでは魚を3枚におろしてサクにして冷凍して日本に輸出している。それが日本人の弁当の食材になっている。

長崎も、大きな魚を獲って鮮度が高いうちに漁港で3枚におろして冷凍し、それを出荷すればよい。小さい魚だと手間賃を出せないが、大きな魚なら手間賃を出すことができる。漁港の近隣には長崎市や佐世保市など少なからず消費してくれる都市もある。輸入品ではなく近海の魚だというアピールもできる。

 

陸のものも海のものと同じ。加工が必要な小麦や大豆は輸入品である。それは農村から都市に出て行った女性たちがつくっている。そして当の女性たちは調理の手間がかからない加工品を求めている。コメを推奨する男性たちは、お菓子屋やパン屋になりたい女性、洋食が好きな女性、料理に時間をかけたくない女性が増えていることに気づくべきだろう。地元の食材を使い、地元の加工場で地元の女性が加工品をつくるのがスマート・テロワールの形である。