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『地産地消』ではなく『地消地産』が持続可能な農村を創る

以下は「スマート・テロワール協会」の前会長松尾雅彦氏が『農業経営者』2017年9月号に寄稿したコラムです。出版元の農業技術通信社昆社長のご好意で転載させていただいております。

 

 

長野県の阿部知事は、1982年に農水省が提唱した地産地消の政策を否定して、「地消地産」を経済政策に据えています。私は昨年、阿部知事から食の“地消地産”アドバイザーの委嘱を受けました。拙著『スマート・テロワール』の仮説の通り、長野県でもまず実証展示圃づくりに取りかかりました。

農山漁村を蘇生するには「地消地産」が原則です。地域再興の原資を国家の財政に依存するのではなく、地域の消費活動をベースにすることが「地消地産」です。農業に限らず、林業でも水産業でも共通の原則です。国家の財政に期待しても、全国すべての地域の要望に応えようとすれば、スズメの涙ほどの配分にしかならず役に立ちません。政治家の選挙の具になるだけです。一方、住民の消費活動は、住民がいるかぎり途絶えることがありません。

「地消地産」はかつて社会システムとして存在していました。しかし、19世紀の産業革命以降に盛んになった分業が海を渡って拡大し、それに伴って仲立ちする商社の事業も増大すると「地消地産」は崩壊しました。そして、現代は「重商主義」全盛の時代になっています。農山漁村の再興を図るには、「重農主義」の旗を立て、地消地産から復活の槌音を響かせること。それ以外に道はありません。

 

これは復古趣味ではありません。たとえば、山の手入れが行き届いていたころを懐かしんでも無駄です。昔は人々の多くが農村に住み、人手があったからであって、現代は事情が異なります。
 今の時代に合った山や農地や海などの資源の活かし方を開発しながら「地消地産」で需要を掘り起こすこと。この作戦は現代だからこそ有効です。21世紀は「サステナビリティ」が重視される時代だからです。人は皆、生態系の中で生かされています。農山漁村を捨てた人にお金で地域の蘇生を依頼すると、生態系を壊しかねません。地域の人々が手間のかかることを厭わずに、地域の生態系を起点に「地消地産」のシステムを創れば、地域社会の「サステナビリティ」が可能になります。
 このとき地域の基本の単位となるのが「テロワール」です。農業も林業も水産業も、テロワールで成功することができるはずです。「地消地産」は「地産地消」ではありません。念のため。