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放牧養豚が農村を救う

以下は「スマート・テロワール協会」の前会長松尾雅彦氏が『農業経営者』2017年10月号に寄稿したコラムです。出版元の農業技術通信社昆社長のご好意で転載させていただいております。

 

 

 7月31日~8月1日、私は北海道の放牧養豚場や害獣対策の現場を視察しました。恵庭市にある「えこりん村」では、山林に電気柵で囲った放牧場を作り、ストレスの少ない環境で豚を肥育しています。
 畜産はスマート・テロワールの要になります。食料自給率を上げるには、飼料を作らなければなりません。日本人は、コメより肉を食べる欧米型の食生活になったからです。現在は、豚肉加工品のハムやソーセージの大部分は原料に安い輸入品が使用され、国産の肉も飼料の大部分が輸入品です。地域で畑作と畜産の循環型農業を成立させれば、飼料代が抑えられ、国産の豚で畜肉加工品を作ることができます。
 地域のなかで畑作と畜産の循環型農業を成立させるには、畑作穀物の加工場ができ、規格外の作物と加工残渣が飼料として活用されることが重要です。堆肥は、畑の土づくりに必要な有機物です。
 また、畜肉加工場、大豆や小麦、ジャガイモなどの加工食品の工場は、周年操業の作業場になり、女性の職場になります。
 畜産業を「放牧」で行なうことも重要なポイントです。地域の土地利用を考えるとき、平野には水田、傾斜地には畑、そして山際では畜産を営むのが理想的です。コメ余りのなかで、無理に傾斜地や山際の水田を維持する必要はありません。家畜を放牧すればよいのです。もともと畜産は放牧でした。山際の耕作放棄地も有効活用でき、獣害を防ぎ、さらに餌に抗生物質を混ぜなくても免疫力がつき病気になりにくくなります。

 先般、EUとのEPA交渉で、動物福祉の観点から日本の豚肉のEUへの輸出が阻まれました。EUでは動物福祉に政策的に取り組んでおり、EU加盟国の最低基準として「EU法規」が設けられています。これは単に感情的な問題だけではなく、工業的な畜産への反発があります。家畜の病気や薬品の多用、環境汚染などの問題から、食品安全性や畜産物の品質に対する懸念からくるものです。

 

放牧養豚に取り組む人々の話を聞くと、放牧している豚は病気になりにくく、ロスが少ないというメリットがあるそうです。放牧は、持続可能社会の機運の高まりのなかで動物福祉を支持する世界的な流れにも合致しています。

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コメント: 3
  • #1

    窪田征司 (金曜日, 12 6月 2020 14:51)

    北海道を除く本島内養豚農家の多くが、小規模又はパドック程度の放牧場しかない現況をどう捉えるかが大事ではないかと思う。糞尿処理の労働力軽減化目的での放牧化であったなら、真正面から糞尿の分離、尿の浄化槽近代化に取り組むべきではなかったかの問題提議もさせて頂きたい。小規模農家は、良い豚肉生産の前に生産効率化を優先するは許される。糞尿処理の遅れのツケが今、放牧制限への問題だけにすり替えられていてはならない。一時的舎飼に戻すにも、手間のかかる糞尿処理の問題点が解決しないと小規模畜産農家の放牧制限への理解は得られないように思う。

  • #2

    窪田征司 (火曜日, 08 9月 2020 14:15)

    養豚業の進化発展には、若い新規参入者の継続的参入が欠かせない。放牧養豚への新規参入には、地方自治体や農業参入企業等主導による「つなぎの事業法人」が新規参入者向け放牧場付き豚舎の区分貸し物件を提供するサポートが必要だ。開発地のど真ん中に合同畜舎を建築し、放射状に放牧場を区分化して提供すれば、新規参入しやすい営農施設付き養豚場の提供となる。新規参入者を一か所に集結すれば、若い新規参入者からも受け入れられる糞尿処理施設の近代化による効果的新規参入支援ができる。

  • #3

    窪田征司 (月曜日, 15 3月 2021 11:02)

    小規模農家が有機農業を推進し、拡大化するには、小規模養豚業の副業的農業が効果的だ。だが、都市化、市街化への協力のため、不便な郊外へ引っ越した養豚農家が、想定しなかったイノシシ媒体の被害に遭っても未だ、防護柵の受益者負担を求める国の環境保全型畜産業への積極的取り組みが先ず必要だ。それは糞尿処理と固形化肥料への自動装置開発ではないかと思う。小規模農家でも安価にリースできる装置の提供が望まれる。