庄内スマート・テロワール4年間の実証実験を経て

以下は「農業経営者」2020年2月号から引用掲載させていただきました

 

畑輪作体系に地域の需要と経営の視点を反映

 

2019年1126日に開催された「庄内スマート・テロワール豊穣感謝祭」で、山形大学農学部から実証実験の報告があった。浦川修司教授は、スマート・テロワール構築に取り組む背景を次のように述べた。

たとえば、国産小麦を使用しているパンは全体の3%、中華麺は全体の5%にとどまる。現代の食生活で需要がある畑作穀物の自給率が低い。その理由は海外に比べ日本の畑作穀物の単収が低いということが根底にある。

そこで、山形大学農学部では、余剰水田や耕作放棄地を活用し、永久畑地化しながら多収高品質の畑作物を生産することを目指していると述べた。

 

以下、畑輪作体系と小麦加工品のラーメンの取り組みについて、豊穣感謝祭での報告に後日の取材内容を含めて報告する。

 

畑輪作体系を庄内の実情に合わせて見直し

 

中坪あゆみ助教は、地域の生産者の意見を取り入れながら、畑輪作体系の実証実験を進めている。この日は4年間の研究を踏まえ、新たな畑輪作体系の提案を示した。

当初、緑肥を含む5作物5年輪作(図1)で検証をしてきた。しかし、生産者の手間や経営面を考え、4年目からは緑肥を除き根菜を入れた5作物4年輪作(図2)で実証実験を始めた。根菜の赤カブ、ダイコン、ニンジンは収益性が高く庄内地域に需要があることを踏まえた選択である。

さらに将来に向け、ジャガイモの代わりに枝豆を入れた5作物4年輪作体系や4作物3年輪作体系を検討中だ。庄内では枝豆の生産量と消費量が多いが、生産現場では連作障害に悩まされている。

そこで枝豆を輪作に組み込むことにより連作障害を回避しようという考えだ。また農機や保管選別設備への投資が必要なジャガイモ栽培を選択しない生産者への代替案でもある。さらに秋小麦に替えパン用の需要を見据えた春小麦を組み込むことも検討している。「生産者と一緒に最適な形にしていきたい」

またジャガイモの加工品については、当初、輸入に依存しているフレンチフライと、国内で需要が伸びているポテトサラダを検討してきた。しかし、庄内にはこのようなジャガイモの加工会社がないことから、惣菜屋やスーパー、学校給食などでつくる惣菜の原料として生産していくことを目指す。

「一つひとつ手仕事で調理する人と地域の消費を支え、庄内の皆さんの期待に応えられるジャガイモの生産と加工を目指していきたい」

 

庄内産小麦を使用した麺で「酒田ラーメン」の魅力を発信

 

庄内では地元発祥の酒田ラーメンが人気で、こだわりの自家製麺やスープで提供する店が多い。花鳥風月もそのひとつだ。

花鳥風月では1910月から11月にかけての約1カ月間、庄内産小麦を使用した「かぼすと貝出汁塩ワンタンメン」ラーメンを酒田本店、鶴岡店、山形北町店の3店舗で約1000食販売した。

庄内産小麦は、山形大学農学部の高坂農場と協力生産者による松ケ岡生産圃場で生産したものだ。佐藤勇太社長は、地元スーパーのト一屋で東北ハムの畜肉加工品を見かけ、庄内スマート・テロワールの取り組みを知った。小麦も生産していることを知ると自社で庄内産小麦粉を使用した麺づくりをしようと考えたという。ひとつのモデルが他のモデルを生んだケースである。

「地域産の小麦で麺をつくれば、酒田ラーメンの魅力が大きくなると考えた」

 

19年産の小麦は、タンパク質含有量が麺の加工に適した10%に届かなかったことから、花鳥風月では従来使用している小麦粉に庄内産小麦の全粒粉を配合した。庄内産小麦ならではの香りや苦味などの風味を引き立てるよう、スープは塩味にしたという。

また酒田の保育園では、「酒田のラーメンを考える会」による「酒田ラーメン給食の日」に合わせて庄内産小麦100%の麺でラーメンを提供し、食育にも一役買った。

佐藤社長も19年から小麦チームMD(マーチャンダイジング)のメンバーに加わり、小麦を100トン生産するという庄内スマート・テロワールの目標を共有している。

「タンパク質含有量が低くても他品種と配合すれば麺にはできるが、タンパク質が10

%以上になればもっと用途の幅が広がる。より多くの庄内産小麦を地域の人々に届けたい」

 

中坪助教によると、20年度は小麦の取り組みに注力するという。小麦の19年秋には庄内の3人の生産者の協力で20年産の秋小麦を約4haに作付けした。山形県内の製粉会社の最小ロットの量を納入するという条件を満たすため、原麦10トン以上の収量を目指す。今後、小麦のタンパク質含有量などの加工適性や、春小麦生産とパン加工の研究も進める予定だ。