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放牧酪農家上野裕さんの物語

12月12日にオンライン講演会が開催されました

放牧酪農家の上野さんから講演をいただきました

この講演を視聴しての気づきを以下に

 

三代続く営農

 

上野さんの牧場は茨城県の霞ヶ浦の南に位置する稲敷にある。

上野さんは祖父の満さんから数えて三代目の酪農経営者だ。

満さんは終戦後満州から引き上げてきた仲間とこの地の開拓に取り組んだ。

協同経営を旗印に沼地の干拓から始めて水田でのコメつくりに取り組んだ。

高度経済成長の中で若手の集団離農が起こり、協同経営の維持が困難になって協同経営を断念して、個別営農に移行した。

 

畜舎肥育から放牧へ

 

酪農は当初畜舎で乳牛を飼育していた。

畜舎飼育は100kgの巨漢高齢者を介護するという例えがぴったりの厳しい労働の連続であった。

2003年に北海道足寄での放牧の成功事例を知り、放牧に踏み切った。

放牧によって人は重労働から解放され、牛は牛舎から解放された思いがした。

放牧に移行して次のようなメリットを享受することになった。

  労働時間が短縮した

  特に夏場の作業軽減は大きい

  牧草が飼料になり穀物は食べなくなった

  牛が健康になり薬代も減少した

  牛のし尿を堆肥として土に返すことで土も、牧草も健康になる

  牛乳が美味しくなり、香りも良くなり、栄養価も高くなった

  チーズなどの加工品の味も、香りも、栄養価もよくなった

  景観が素晴らしくなった

 

上野経営の価値観

 

上野さんの放牧経営には原則がある。

それは一頭あたりの面積を30aとすることだ。

欲に任せて飼育頭数を増やしたり、密集放牧をするよう世界とは無縁なのだ。

つまりは土地の面積という制約条件の中で、最適化を目指すということだ。

ここには「多ければ多いほど良い」という欲望資本主義とは無縁の世界がある。

この制約条件を守ることで牛も生産者も幸せになることができるということだ。

また家族経営を基本とすることからも規模拡大を目指さないという考えも読み取れる。

そして何よりも規模拡大だけが収益性を良くするという発想からも無縁であることが素晴らしい。

欧州の農家は米国のような大規模かを目指していない。

ここでも家族経営で立派に米国との競争に負けない経営を実現している。

こうした上野さんの放牧経営に共感して、多様な協力者が現れている。

上野さんの牛乳を加工するチーズ工房の経営者や、耕作放棄水田を畑地化してトウモロコシの生産に挑戦する農家の方々だ。

初代の満さんが目指した協同経営の夢が形こそ違えど実現しているように思える。

 

上野式放牧はスマート・テロワールの小宇宙を実現している

 

上野さんは松尾さんの「スマート・テロワール」に触発されてその実現を経営ビジョンとして掲げている。

スマート・テロワールの食品は美味しい、栄養価は高い。

スマート・テロワールの農村景観は美しい。

スマート・テロワールの住民は健やかに生活している。

スマート・テロワールの住民はゆったりした時間を享受している。

スマート・テロワールの住民同士は大地がとりもつ縁で結ばれている。

こうした世界観を上野牧場はすでに小規模ながら実現しているようだ。

スマート・テロワールを提唱した松尾さんも幽冥世界でエールを送っているはずだ。