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花巻で生まれた耕畜連携の物語

2月2日に第二回のオンラインセミナーが開催された。

今回は岩手県花巻市の、

農業経営者の盛川周祐氏(有限会社盛川農場 代表)と、

畜産経営者の高橋誠氏(高源精麦株式会社 代表取締役)に、

ご登壇いただいた。

 

盛川氏の取り組み

 

盛川氏は90haの水田を乾田化(30ha)し、また畑地化して直播水稲と大豆、小麦、子実トウモロコシを生産している。

日本の子実トウモロコシの輸入量は1,600万トン。これに対して国内生産量はわずか5千トン。ほぼ100%を輸入に依存している状態だ。つまり日本で子実トウモロコシを生産する農業経営者はまさに異端者だ。

この様な状況で盛川氏が子実トウモロコシの生産に挑戦したのは次の様な理由からだ。

l   トウモロコシを畑作の輪作体系に組み込むと土壌が肥沃化する。つまり収穫後にトウモロコシの茎や葉を畑に鋤き込むと、大量の有機物が土壌に付加され微生物が活性化して土壌が肥沃化する。

l   大豆や小麦の増収効果が期待できる。トウモロコシは地中から水分をよく吸収するので排水効果が高く、土壌の肥沃化と相まって輪作体系に組み込まれた小麦や大豆の反収が増加する。

l   畑地で野菜の栽培も選択肢としてあるが、野菜は手間がかかり、人手を増やさないと対応できないが、トウモロコシは年間70分/反程度の圧倒的に少ない労働投下で済んでしまう。

l   日本では未踏の分野であるトウモロコシの生産にチャレンジする農業生産者としての高揚感がたまらない。

 

トウモロコシはまさに世界的なマーケットで取引される投機的な商品であり、天候や各国の消費動向からくる価格の変動に見舞われる素材だ。また厳しいグローバル競争に見舞われ、巨大生産者がギリギリまで生産性を追求しているので価格面では採算に乗らない。

しかし輪作体系の中で大豆や小麦を含めた総合的な採算で考えれば、手間がほとんどかからない点を含めて魅力的な品目だ、というのが盛川氏の評価だ。

 

いかに魅力的な品目とはいえ、生産したトウモロコシを購入していただく需要家が見つからなければ栽培には踏み切れない。

 

花巻の構畜連携

 

そこで盛川氏は花巻で養豚業を経営する高橋氏のところに飛び込んだ。トウモロコシを生産するので飼料として使ってみてくれないかと頼み込んだのだ。高橋氏は初対面の盛川氏の話を聞いて興味を持ち即座にこれを受け入れることにした。こうして心強い需要家を得た盛川氏はトウモロコシ栽培に踏み切ることになった。

トウモロコシの供給を始めて、盛川氏は高橋氏から堆肥の供給が受けられる様になった。堆肥を使用することで作物の収量はさらに拡大した。また高橋氏にとっても大量の堆肥を引き取ってもらえる需要家が現れたことで、堆肥の処理の煩わしさから解放されることになった。

こうしてまさにスマート・テロワール構想の柱の一つである構畜連携がここ花巻で始まったのだ。市場を介すること無く、生産者同士が直接取引に携わり、その直接的な関係の中で、農産品の品質をカイゼンをしたり、納期や納品量を取り決める地域内での互酬関係が産み出されたのだ。

 

高橋氏の取り組み

一方の高橋氏は高源精麦株式会社の代表として養豚、食肉、惣菜、レストランの経営を手がける経営者だ。高源精麦の養豚部では常時6.000頭の肥育を行い、年間1万1千頭以上の生産を行なっている。何よりも97年に生産を始めた「白金豚(プラチナポーク)」は日本でブランド構築を実現した数少ない銘柄豚で、その品質は業界の専門家に高く評価されている。

また精肉惣菜部では、職人による手作業カットの丁寧な仕上げが飲食店に支持され、有名料亭からホテルなどの優良な顧客と結びついて、事業を拡大している。

高橋氏も森川氏のトウモロコシを飼料として活用することに大きな意義を見出している。

l   トウモロコシを豚に給餌する形状は乾燥して粉末状にするか、サイレージ化するかなどあるが、豚の肥育状況をみながら選択が可能だ。

l   世界商品としてのトウモロコシの価格は変動が激しい。最近では中国の需要の急拡大と気候変動による供給の減少で価格は高騰しがちだ。地域の生産者と直取引が可能になれば価格が安定し、養豚事業の経営が安定する。経営の安定は製品の品質カイゼンや品種開発などに経営資源を集中できる。

l   安定的な堆肥の引き取り手が存在することで周囲の風評被害を緩和できる。

l   日本の養豚業は品種も飼料も輸入に依存している。この実態は海外でまったく競争力を持たない。ある意味で日本でしか通用しない豚のガラパゴス化現象だ。遺伝子組換えでない国産飼料で肥育された豚なら国際的に競争力をもつ。また日本でも消費者のニーズに応えることになる。

豚の飼料として飼料米の供給も増加している。しかし高橋氏は飼料米は使わない。「飼料米の豚は味に深みがない、力強さというかパンチがいまいち感じられない。なのでトウモロコシで育てる」。

 

花巻のトウモロコシによる耕畜連携の課題

 

盛川氏と高橋氏の進める花巻での耕畜連携を今後さらに発展させる上での課題をあげるとすると以下のことが浮かび上がる。

l   さらなる収穫の高速化、省力化による作業体系の進化。

l   収穫・乾燥・貯蔵・加工・運搬工程の体系化。

l   台風による倒伏への対応。

l   水稲、大豆との収穫作業の調整による最適化。

l   収益性の改善。

l   耕畜連携による品質のカイゼン。

l   クマ被害の対策。

農業生産者と畜産農家がそれぞれ孤立しての個人戦ではなく、連携による団体戦が可能となったいまでは、同士も増やしつつこうした課題を徐々に解決してさらなる高みへと花巻地域を導くに違いない。

 

子実トウモロコシに挑戦する方々へ

 

最後に盛川氏に聞いてみた。

----全国の子実トウモロコシに挑戦してみたいという方に、まずどこから始めるかについてアドバイスをお願いします。

 

盛川氏「まずは小さい規模で始めることです。そして始める前にトウモロコシを使っていただけるお客様を捕まえることです」