スマート・テロワール協会の会員茂木信太郎氏から興味深い報告書をお送りいただきました。
「信州食品事業者連携協議会」が実施した「松本市大学生応援一万食プロジェクト」についての報告書です。(同報告書はこのブログの文末に添付いたしますのでダウンロードしてぜひお目通しください)。
同報告書によってとても重要なそして意味深い事実を知ることができました。
一つはコメ余りと言われているけれどコメの需要は高価格によって制限されているということです。つまりコメの価格を下げれば需要はかなり拡大できるのではないか。少なくとも食べ盛りの若者の需要は倍増程度に喚起できると考えられるのではないかということです。
二つめの気づきは松本市のこの協議会がとても有意義な活動を展開しているということです。地域の食品加工業者が連携してプロジェクトを実行し、その過程で相互の事業について情報交換、意見交換を行うことで連携の密度を加速させています。地域の食品加工業者が連携することで地産地消の成果をより効率的、効果的にすることができるということを気づかせていただきました。
プロジェクトの内容をご紹介しましょう
「信州食品事業者連携協議会」は、「松本市大学生応援1万食プロジェクト」と銘打って、2021(令和3)年11月29日(月)より12月3日(金)の5日間にわたり、信州大学および松本大学・松商短期大学部(以下松本大学)の協力のもとに、両大学の学生食堂で地元産米(「風さやか))の炊き上げた「ライス」を無料で提供しました。
COVID-19によって松本地域の学生もアルバイト先を失うなどして、生活上のピンチを迎えていました。こうした学生に少しでも生活費の足しになればとの心遣いから、同協議会は学食でのライスを無料で提供することにしました。
このプロジェクトの成果を確認しましょう。信州大学の学食でのライスの食数は次のグラフのように約2.3倍の伸びを示しました。
この学総食数の内訳をみてみましょう。信州大学の学食で提供されるライスは特大、大、中、小、ミニの5種類になります。それぞれの食数の変化は次のグラフで確認できます。
結果はなんとミニと小が減少して、特大、大、中が増えています。中でも特大と大が顕著に増加していることがわかります。総食数の増加はほぼ特大と大の増加によって実現したということができます。
ライスが無料になったので、それまで200gが中心の食数が、270gと340gへと増加しました。なんと135%から170%へもの大幅な増量です。
さらにこのライスの需要増加率を重量で計算すると次のような実態が見えてきます。
なんと特大340gの需要の増加は28倍にもなりました。全体の需要量も3.1倍に達しました。
普段は270g の量を選択する学生は18%でしたが、無料になって60%の学生が大以上のライスを選択するようになったのです。
以上の結果から食欲旺盛期の学生にとってコメの価格弾力性は極めて高く、価格がゼロになった場合は少なくとも3倍の需要増加を見込めるということが推定できます。
こうした実態から最近のコメの余剰は食の欧風化によるものばかりとは言えず、コメの価格の上昇、そして消費者の可処分所得の伸び悩み、さらには消費者の相対的貧困化などによるところも多いのではとさえ思えてきてしまいます。
コメの需要拡大はすぐできそう
このことから児童の給食、大学の食堂また子ども食堂に対して政府あるいは自治体が無償でコメを提供する施策によってコメの需要は少なくとも現状の1.5枚程度には増加するのではないかという仮説を立てることが出来そうです。
東大教授の鈴木宣弘氏の著作『農業消滅』によれば、米国の農業法予算は年間1,000億ドル近いが、その8割近くがSNAPと呼ばれる低所得者層への補助的栄養支援プログラムに使われているそうです。
米国政府は農業生産者への直説的な所得補償政策に加えてこのような形で消費者向けに所得補償を実施して、食品需要とりわけ農畜水産業向けの需要を喚起し、間接的に農畜水産業の所得補償策を補強しているのです。
日本の場合所得補償政策の拡充となりますとその実現は多くの困難に突き当たります。そこで児童や学生の食事向けにコメを政府あるいは自治体が買い上げて無償で提供することにすれば比較的簡単にコメの需要拡大が実現できそうです。
この施策によってコメの需要が増加し、遊休水田が再生することになります。同時にコメ生産者の収入が増加し、同時に育ち盛りの児童を抱える消費者の懐具合も改善されることになるでしょう。
何よりも青少年に対して十分なカロリー補給が可能になることが期待できるのです。
昨今食糧安全保障に関心が高まってきています。食料自給率の低い畑作穀物の自給率を高めることが食料安全保障の根本的な解決策です。
しかし同時に食糧安全保障にとってコメの需要拡大は実効性がありしかも即効性のある極めて有効な施策であり、それゆえにすぐにでも実行すべき施策と言えそうです。
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株式会社おむすびころりん本舗 石井斉 (月曜日, 25 7月 2022 09:13)
中田さん
大変ご無沙汰しております。
中田さんがカルビー社長時代、北関東(群馬や栃木など)で働かせていただいていた石井です。
何度がお話をさせていただき、社長賞を2年連続でいただくなど、支店営業所の皆の励みになりました。
大変お世話になり、誠にありがとうございました。
8年前にカルビーを退職して、食品中小企業の再生を生業とするようになりました。
6年半の間、山形の会社経営を担った後、今はヨシムラフードHDという「地方で守るべき食文化を
M&Aで事業継承する」ことをコンセプトにした組織に属し、安曇野の会社を受け持っています。
取り上げていただいた「信州食品事業者連携協議会」を仲間と立上げ、幹事会社として頑張っています。
カルビー退職後も、中田さんとは近い仕事をしているのだと感じ、心より嬉しく思います。
またお会いできますことを、楽しみにしております。
株式会社おむすびころりん本舗 石井斉
携帯:070-1539-8932
mail: h-ishii@omusbikororin.co.jp