地場食品加工業に強力なサポーターが現れた

信州食品事業者連絡協議会の勉強会に参加し取材しました

 

スマート・テロワール構想において地場の食品加工業の役割は極めて大きいものと考えられております。

畑作穀物は小麦にしても、大豆にしてもそのまま消費者の調理によって消費されず、それらを原料とする食品加工業の加工プロセスを経た加工食品として消費されます。

こうした食品加工業がテロワール内に立地して地元産の穀物を栽培する農家と直接的に連携することが、地域の穀物需要を創出し、地域自給圏の基盤を形成することになります。

 

このような問題意識から12月5日に松本市の食品加工業の有志の方々が参加、運営されている「信州食品事業者連絡協議会」の勉強会を取材してきました。

 

 

 

信州食品事業者連絡協議会とは

 

同協議会は「松本市など信州に立地する食品製造企業が集まり、地産地消と地域経済連携を推進すること」を目的として設立されました。

またその活動内容は以下の通りです。

l   市場動向の共同研究

l   新製品の共同開発

l   スタッフの能力アップのための共同研修 工場・店舗・事業所などの相互見学と共同研修

l   地域資源の発掘と深耕

l   学童・学生の「食」学習機会の提供と協力

l   地域経済・地域社会への貢献

l   共同広報活動

まさに地場の食品加工業が連携して地域の食品産業の活性化を目指すコミュニティを形成しようという意図が伺えます(文末の注を参照してください)。

こうした地場の食品加工業がコミュニティを形成して、原料の農畜産品を地場の農畜産生産者に求め、協働して地域の食品業を盛り立てていく活動が展開されるならば、スマート・テロワール構想の実現に直結すると期待することができます。

 

さて今回の勉強会では以下の報告と意見交換がなされました。

l   「コロナ禍と外食産業」についての報告。

Ø   報告者は信州大学大学院特任教授の茂木信太郎氏。

l   「食品企業の事業継承」についての報告。

Ø   報告者は株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス執行役員事業本部長の石井斉氏。

 

ヨシムラ・フード・ホールディングスのビジネスモデル

 

筆者はヨシムラ・フードの事業についての報告を聞いて、同社はスマート・テロワールの中核をなす食品加工業の強力なサポーターの機能を展開するのではないかという期待を抱くまでになりました。

ヨシムラ・フードは事業継承、事業開発、経営人材難などなどの経営難に陥った中小食品企業をM&Aして傘下に納め、連結企業として事業再生を実行する企業グループです。

https://www.y-food-h.com/

 

ファンドが行うM&Aは通常、経営難に陥った企業を買収して再生し、企業価値を高めたのちに売却することが一般的です。これに対してヨシムラ・フードはM&A後に企業価値を高めて売却するのではなく、グループ内企業として持続的な成長をめざすというビジネスモデルを採用しているところに大きな特徴があります。

 

ところで地域の地場食品加工業は全国的規模の大手食品加工業の攻勢を受けて衰退のトレンドにあります。そして大手食品加工業はその原料を海外に求めることから、国内の畑作穀物や畜産品に対する需要の継続的な縮退を招いていると言えます。

従ってこうした地域食品加工業の衰退傾向に対抗することは、国産の畑作穀物と畜産品の需要の拡大の決定的な推進力になると考えられます。

この意味でヨシムラ・フードの取り組みは地域農畜産業にとって強力なサポーターとしての機能を期待できるのではないかと思われます。

 

さてヨシムラ・フードの本部は二つの機能を実行しています。一つはM$Aの推進です。もう一つは傘下企業に対する様々な支援機能の実行です。

傘下企業に対する支援機能は、例えば予算管理、品質管理、生産管理、マーケティング、販路拡大などの経営管理の基本機能の正常化や機能強化をサポートすることにあります。

中小企業はこうした経営管理機能が決定的に脆弱であることが多く、このことが経営力の弱さにつながっています。傘下企業にマネジメント機能の軸を形成することだけで企業価値が大きく拡大することが期待できるのです。

経営管理能力が整ったのちは傘下企業相互の協働による経営革新が期待できます。傘下企業が有する得意技術を相互に移転することや、傘下企業のノウハウを活かして新商品や新規事業を開発することが可能になります。

本部はこうした傘下企業のシナジー効果をプロデュースするプラットフォームの役割を果たしていると言えましょう。

 

ヨシムラ・フードから見えてきたスマート・テロワールの新機能

 

今回のヨシムラ・フードの勉強会を通じてスマート・テロワール構想の実現に向けて新しい機能創出が必要であることが見えてきました。

それは地域食品加工業がより効果的で持続可能な企業活動を展開することをサポートするプラットフォームの機能です。この食品加工業支援プラットフォームが形成されることで、スマート・テロワールを支える地域食品加工業の経営基盤が拡充され、ひいては地域の農畜産業の活性化が期待できることになるのです。

信州食品事業者連絡協議会はまさに地域の小工品加工業を支えるプラットフォームの形成の端緒をなしたと言えるでしょう。そしてプラットフォーム機能の充実はヨシムラ・フードの本部機能をモデルにその後を追うことによって実現すると考えられます。

 

そして同協議会の参加企業として石井氏が代表を務める「おむすびころりん本舗」が存在することが同協議会のプラットフォーム化に決定的な役割を果たすことは疑いの余地がないことと言えましょう。

 

結びに勝手ながら、ヨシムラ・フードが傘下に収める企業がそれぞれの立地する地域に同様の協議会を組成し、地場食品加工業のプラットフォーム形成の推進力になることを願わずにはおられない。

 

 

 

 

注 同協議会は「松本市大学生応援1万食プロジェクト」と銘打って、2021(令和3)年1129日(月)より123日(金)の5日間にわたり、信州大学および松本大学・松商短期大学部(以下松本大学)の協力のもとに、両大学の学生食堂で地元産米(「風さやか」)の炊き上げた「ライス」を無料で提供する活動を展開しました。

(この詳細については

「松本市大学生応援1万食プロジェクト」

にて紹介しておりますので、ご参照ください。)